「敷金110番」アパート・マンション退去時の駆け込み寺

原状回復についてのガイドライン

民間賃貸住宅の賃貸借契約については、本来、契約自由の原則により、法令に抵触しない限り、その内容について行政が規制することは適当でないとされてきました。 しかし、近年退去時における原状回復にかかるトラブルが増加してきたため、建設省(現国土交通省)が、賃貸住宅標準契約書、民法や判例などの考え方を踏まえ、 原状回復をめぐるトラブルの未然防止と円満な解決のために、契約や退去の際に貸主・借主双方が予め理解しておくべき一般的なルール等をガイドラインに定めました。


1.借主の原状回復義務

建物の損耗等は次の3つに区分されますが、原状回復についてのガイドラインでは、(3)についてのみ借主の原状回復義務が生じ、借主が費用を負担すべきと考えています。 反対に、例えば次の入居者を確保する目的で行う設備の交換、化粧直しなどのリフォームについては、(1)(2)の損耗等の修繕であり、家主が費用を負担すべきとの考えです。

(1)建物・設備等の自然的な劣化・損耗等(経年変化)
(2)借主の通常の使用により生ずる損耗等(通常損耗)
(3)借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等

2.特約のある場合

原状回復についてのガイドラインでは、原状回復について、経年変化・通常損耗ともに借主負担とする内容の特約のある場合でも、 つぎの要件を満たしていなければ、効力を争われることに充分留意すべきとしています。

(1)特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
(2)借主が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
(3)借主が特約による義務負担の意思表示をしていること


消費者契約法について

 平成13年4月1日に施行された消費者契約法の第10条は、「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、 消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」と 定めています。


 この条文によれば、特約で通常の使用に伴って生じた損耗(通常損耗)や、経年変化による汚れについても借主に原状回復義務があるとしたら、この条文に違反し無効となります。
なぜなら賃貸借契約について民法606条1項は家主の修繕義務を定め、また賃料は借主の通常の使用・収益に対する対価であるからです。

 このことを考えれば、通常の使用による汚損、損耗(自然損耗)は貸主の負担とするのが民法上の基本原則です。 特約が原状回復の内容に自然損耗も含み、更には「リフォーム費用」まで借主の負担とするものとすれば、民法の原則に反して消費者である借主の義務を加重するものであり、 かつ借主に一方的に不利益な特約であるため、民法第1条第2項の信義則に違背し、無効であることは明白です。 ですから平成13年4月1日以降に新たに賃貸借契約を結んだり、賃貸借契約書を新たに書きかえて合意更新した場合は、消費者契約法第10条が大きな味方になってくれます。